3・「パパ」と呼ばれる日

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だから,血の繋がらない父親ができたとしても,きっとひねくれずにまっすぐ育ってくれると思う。 何の確証もないけれど,美優はそう確信していた。 (だって,裕一さん(あの人)が父親になってくれるんだもん) 彼は間違いなく,春奈に()しみなく愛情を注いでくれるだろう。そして春奈も,それを素直に受け入れるに違いない。 三人ならきっと,いい親子関係が(きず)ける。 美優は,可愛い我が子の手を引いて,家路(いえじ)を急いでいた。 家族四人での夕食が済み,母と二人で後片付けを終えると,美優はリビングで読書をすることにした。春奈は今,寝室で父に遊んでもらっている。例の「クマさん親子」と一緒に。 読むのはもちろん,今日買ってきた裕一の恋愛小説である。その中の一冊目の文庫本をビニール袋から引っぱり出していると……。 「あら?コレ,浜田裕一先生の出された本じゃないの。珍しいわね,あんたが恋愛小説()むなんて」 母が目を丸くした。確かに,美優が活字の本を読むこと自体,珍しいのだけれど。 (っていうか,「先生」⁉……あ,そっか。お母さん,裕一さんのファンだったっけ) 自分の恋人(!)を「先生」と呼ばれたことは,何だかむず(がゆ)い。 そういえば,と美優は思い出した。母にはまだ,彼との関係を話していなかったということを。 てっきり,父から聞かされているものだと思っていたのだが……。
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