3・「パパ」と呼ばれる日

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「あれ?お父さんから聞いてない?あたし,昨日から浜田裕一さんとお付き合いしてるんだよ」 「ウソっっ⁉ホントなの,それ?お父さんったら,私には何にも話してくれないんだものっ!」 四十六歳の母が,子供のようにむくれているのが何だかおかしくて,美優は吹き出す。 「お母さん。よかったら今度,恋人特権で彼にサインもらってきてあげよっか?」 彼なら,「母があなたのファンなんです」と美優が言えば,サインくらい(こころよ)く書いてくれるだろう。 「別にいいわよ,そこまでしてくれなくて」 「そう?」 まだ()ねているのか,あっさり断った母に美優は肩をすくめ,本のページをめくり始める。 読み始めたら,作品の世界観に引き込まれて止まらなくなった。優しい彼の人柄が文章にも(にじ)み出ている,切ない純愛小説だ。 そして時間が経つのも忘れ,三分の一くらい一気に読んでしまっただろうか。 気がついてふと顔を上げた美優は,寝室で春奈と遊んでくれていた父が,いつの間にかリビングに戻ってきているのに驚いた。 しかも,父は困惑顔をして,機嫌を(そこ)ねたままの愛妻と娘の顔を交互(こうご)に見ていた。 「どうしたの?」と,美優が目だけで(うった)えかけると,父は小声で美優に訊き,首を捻ってみせた。説明を求めているらしい。
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