3・「パパ」と呼ばれる日

8/27
前へ
/86ページ
次へ
「……母さん,どうかしたのか?何を怒ってるんだ?」 「ああ。あたしが作家の浜田裕一さんとお付き合い始めたこと,お父さんは知ってるのに話してくれない,って怒ってんの。お父さんから,お母さんに話してくれてると思ったのに」 「あ……」 しまった,と顔をしかめる父に,美優はさらに追い打ちをかけた。 「お母さん,彼のファンでしょ?だから,自分だけ仲間(はず)れにされたような感覚なんじゃないかなあ」 「"仲間外れ"って,ガキか。ただでさえ,ウチには春奈がいて手がかかるってのに」 「悪かったわね!――別に私,拗ねてなんかいないわよ」 下手(へた)をすれば夫婦ゲンカ,という両親の険悪なムードに美優は(きも)を冷やしたけれど。 「(おれ)の言い方が悪かった。すまん」 大体は,どちらかが謝るとケンカは回避(かいひ)される。今回もそのパターンだった。 「お父さん,春奈の子()り,お疲れさま。肩こってない?もんであげようか?」 「おっ,悪いな。サンキュ」 美優は娘と遊んでくれていた父を(ねぎら)い,肩をもみ始めた。 「うわー,ガチガチだねえ。いつもご苦労さまです。――ところで春奈は?」 彼女は父の肩をもみながら,我が子の様子を訊いてみる。 「春奈なら,遊び疲れて寝ちまったよ。あの調子だと,朝まで起きそうにないな」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加