3・「パパ」と呼ばれる日

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(なるほど。だからお父さん,こっちに戻ってこられたワケね) 美優はそれで納得できた。春奈は父親がいない分,祖父である秀雄にベッタリなのだ。春奈が眠ってでもいない限り,父が離れた途端に母娘の寝室が(さわ)がしくなっていたに違いない。 「そっか。じゃ,あたしもそろそろ部屋に行くよ。春奈の(そば)についててあげたいし」 美優は父の肩もみをやめ,読んでいた本をビニール袋に入れると,ソファーから立ち上がった。 「お父さん,お母さん,ちょっと早いけどおやすみなさい。――あ,後でシャワーは()びに来るかもしんないけど」 「ああ,おやすみ」 「美優,おやすみなさい。――やっぱり,浜田先生のサイン,お願いしてもいい?」 「…………分かった。いいよ」 (お母さんの意地っぱり。やっぱりサイン欲しいんじゃん) 美優は呆れながらも,母に頷いてみせた。彼のサインが欲しいなら,最初から素直に(たの)めばいいのに! 書店のビニール袋を抱え,彼女は寝室に入った。 袋はベッドの枕元(まくらもと)にそっと置いて,トートバッグからスマホを取り出す。 裕一に報告したいことがあって,何より,彼の優しい声が()きたくて。室内の照明をつけていたら,(まぶ)しくて春奈が目を覚ましてしまうかもしれないので,スタンドライトの(あか)りだけを(たよ)りにスマホを操作して,彼のスマホの番号をコールした。
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