3・「パパ」と呼ばれる日

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三コール目で,彼は出てくれた。 『もしもし,美優?昨日はどうも』 電話の向こうから,何やらカチカチ,だかカタカタ,だか音が聞こえてくる。 これは……,マウスかタイピングの音?もしかして,PC使ってたのかな? 「こんばんは。こちらこそ,昨日はありがとうございました。――あの,もしかしてお仕事中……でした?」 いくら本人から「気にしなくていい」と言われても,やっぱり気を遣ってしまう。 もし迷惑だったら,「ごめんなさい,また後でかけ直します」と言うつもりでいたのだが。 『うん,ちょっと連載原稿の手直しをね。でも,急ぎじゃないから大丈夫。――で,どうしたの?』 ……それじゃ,さっきの音はやっぱりタイピングの音だったのか。彼はどうやら,ノートPCを使っていたのを中断して,電話に出てくれたようだ。 「あ……,えっと。裕一さんに二つほど,お知らせしたいことがあって」 声を(ひそ)めているのは,隣りで春奈がぐっすり眠っているからなのだと説明した。 「まず,日曜日の行き先なんですけど。娘のリクエストで,動物園に決まりました。それと,昨日買って頂いたクマさん,すごく喜んでくれましたよ」 (あれ?報告が一つ増えてる気がするけど,まあいっか☆) 話しながら気づいて,美優は自分で首を傾げる。でも,気にしないことにした。 『動物園だね。うん,オッケー。じゃあ,待ち合わせの時間とかはまた改めて相談しよっか。――で,もう一つの報告って?』
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