3・「パパ」と呼ばれる日

11/27
前へ
/86ページ
次へ
美優からの電話がよほど嬉しかったのか,裕一の声は何だか(はず)んで聞こえる。 それなら,もっと彼を喜ばせたい。彼の嬉しそうな声を,もっと聴いていたい。彼女はそう思って,二つめの報告をするために口を開いた。 「あたし今日,裕一さんが出した本,四冊とも買ったんです。で,一冊めの『雪花(ゆきばな)』はもう,一気に三分の一くらいまで読んじゃいました」 『えっ?早速(さっそく)買って読んでくれたんだ?ありがとう!……で,どうだった?』 彼は嬉しそうに,感想を求めてくる。作家にとって,読者からの感想は一番の(はげ)みになるし,また今後の作品の(かて)にもなるのだ。聴きたがるのも当然だろう。 「はい。とっても切ないお話で,裕一さんの人柄が文章にも滲み出てて,作品の世界観にぐっと引き込まれました」 『そっかそっか。気に入ってもらえてよかった』 「ええ。まだ続きもあるし,他の作品もまだ読んでないので,その感想はまた今度。……ところで裕一さん。一つお願いがあるんですけど」 『ん?』 まだ交際を始めたばかりで,図々(ずうずう)しいだろうか?美優は少し渋ったけれど……。 「あの,母があなたのファンらしくて。図々しいお願いかもしれないんですけど,日曜日に会う時で構わないので,母()てにサインをもらえないかな,と思って」 これも親孝行だ。母を喜ばせたくて,厚かましいのも自覚したうえで彼にお願いした。 ……そしたら。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加