3・「パパ」と呼ばれる日

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「でもね,あたしが結婚したいと思ってる人だから,あの子も懐いてくれると思うんだよね。あくまで,希望的観測だけど」 そう言って,美優はグラスの中のビールを飲み干した。 「お前……,そいつに()れたのか?」 「……うん,そうかも。だから,彼とも恋愛関係から始めることにしたの」 空にしたグラスをコトン,とローテーブルの上に置いて,美優は(ひと)(ごと)のように呟く。 「あたし,こんなに男の人に対してキュンとなったの初めてかもしんない」 「春奈の父親のことは,どうだったんだ?」 父の問いかけに,美優は少しムッとしたけれど。彼女自身も首を傾げていたことだったので,素直に打ち明けた。 「正直,あたしにも分かんないんだあ。なんか,ノリだけで付き合って,ワケ分かんないうちに盛り上がっちゃって。で,春奈ができたって感じだったから。若気(わかげ)(いた)り?」 (アイツ)のことを好きだったかどうか,実はあまり記憶に自信がない。 四年前に妊娠が発覚した時,美優は彼に「責任を取れ」と言ったけれど。今になって思えば,彼に「責任感」だけで父親になってもらってもダメだったかもしれない。彼には,子供に対する愛情がなかったから。
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