3・「パパ」と呼ばれる日

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ママと手を繋いで歩いていた春奈が,最寄(もよ)り駅の手前で(あゆ)みを止めた美優ママに不思議そうに言った。 「ママ?えき,こっちだよ」 「ゴメンね,春奈。今日は電車じゃないの。こないだ,『春奈に会わせたい人がいる』って言ったでしょ?その人とね,この(へん)で待ち合わせてるんだ」 待ち合わせの時間は,十時半だ。――美優がスマホの画面で時刻を確かめると,間もなく約束の時間になる。彼もそろそろ来る頃かな? ――と,その時。車のクラクションの音がして,美優と春奈の母娘の前に一台の白いミニバン車が停まった。 「おはよ,美優。待った?」 運転席から降りてきた裕一が,美優に笑顔で声をかけてくれた。彼はTシャツの上に白いジャケット・ブラックデニム姿で,スニーカーを()いている。 「おはようございます。あたし達も,今さっき来たところなんですよ。――あ,紹介しますね。この子が,娘の春奈です」 「ささはらはるな,さんさいです。よろしくおねがいします,おじさん」 初対面の大人に対して,キチンとご挨拶(あいさつ)ができた春奈を,美優は親バカも承知(しょうち)で「よくできました☆」とベタ()め。 一方の裕一はというと,「おじさん」と呼ばれたことには戸惑ったようだが,「アラサーは立派なおじさんだよな」と自分を納得させ,春奈にもニッコリ微笑みかけた。
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