3・「パパ」と呼ばれる日

19/27
前へ
/86ページ
次へ
「初めまして,春奈ちゃん。おじさんはママのお友達で,浜田裕一っていいます。よろしく」 彼は腰を(かが)めて,小さな春奈と目線を合わせてくれた。美優には彼のそんな優しさがすごく微笑ましくて,見ていて(なご)む。 「春奈ちゃん,可愛いしいい子だね。お母さんに似たのかな?お母さんも美人だもんな」 彼の言う「お母さん」が自分のことだと分かると,美優は謙遜(けんそん)した。 「いえいえ,そんなこと……」 「今日は一段とキレイだよ。もしかして,メイクしてきた?」 「はい。……分かっちゃいました?」 美優は照れ臭そうに苦笑い。でも,彼に気づいてもらえたことは嬉しくて。 「うん。美優は元がいいから,それくらいのメイクでも充分キレイなんだね」 「えっ?そうかなあ……」 「メイク」といっても,ファンデーションとリップだけの,本当にナチュラルメイク。それでも,「キレイ」だなんて。「元がいい」なんて! (お世辞でも嬉しいし,お世辞抜きならもっと嬉しい!) 彼は本当に,女心をよく理解してるなあ,と美優は思った。そうでなければ,あんなに女性の心を打つ小説なんて書けないだろう。 「――ママー,おじさーん,どうぶつえんはー?」 早く行こうと急かさんばかりに,春奈が服の(すそ)を引っぱった。――よりにもよって,美優(ママ)のではなく,裕一のジャケットの裾を。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加