3・「パパ」と呼ばれる日

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「こら,春奈っ!ダメでしょ!……ゴメンなさい,裕一さん」 娘をたしなめる美優を,彼は「まあまあ」と(なだ)める。 「僕は大丈夫だから。でも,キチンと子供を(しか)れるっていうのはさ,いい母親だってことだよ。――じゃ,お二人さん。そろそろ行こっか。さ,乗って乗って」 裕一が車の後ろのドアを開ける。そこにあったものに,美優は感激した。 「チャイルドシート……。えっ,もしかして春奈のために,わざわざ付けてくれたんですか?こないだは,なかったのに」 「うん。小さい子を乗せる人の義務だから。……っていうのは建前(たてまえ)で,もちろん春奈ちゃん専用だからね」 裕一は春奈をチャイルドシートに座らせ,シートベルトを()めてやった。 「美優は,今日は後ろ。お母さんだから,春奈ちゃんの隣りに乗ってあげて,ね?」 「はい」 ――裕一が運転席に(おさ)まり,三人が乗った白のミニバンは走り出した。 後部座席から見える景色(けしき)は,数日前に同じ車の助手席から見た景色とは違って見える。 「今日は道()んでるから,時間かかるかも。お母さんも春奈ちゃんも,眠かったら寝てていいからね」 「はあい。でもハルたん,ねむたくないよ。きのう,はやくネンネしたもん」
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