3・「パパ」と呼ばれる日

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娘の言葉に,美優は「ハハハ……」と苦笑い。それはなぜかというと……。 (実は昨夜,寝かしつけるの大変だったんだよね) 今日という日が楽しみすぎて,この子はベッドに入ってもなかなか寝ついてくれなかったのだ。 クマの親子で散々(さんざん)相手をして,美優自身がクタクタになった頃に,やっと寝てくれたという()(さま)だったわけである。 「――あ,そうだ。ねえ,春奈。あの()っきなクマさんね,このおじさんが買ってくれたんだよ」 「そうなの?おじさん,ありがとう!」 「いいえ,どういたしまして。喜んでもらえて何よりだよ」 チャイルドシートからキチンとお礼を言った小さな春奈に,運転席から裕一が目を細める。 「そういや春奈ちゃん,今日はクマさん達は連れて来てないの?」 「うん。おうちでおるすばんしてるのー」 座席の前後の距離はあるものの,彼と娘との心の距離は確実に縮まっていると,美優は感じていた。 (あとは,どのタイミングでこの子に話すかだけだな……) 「このおじさんは,春奈のパパになってくれる人なんだよ」と。「ママ,この人と結婚するつもりなんだ」と。 春奈が事実をどう受け止めるかを,美優はずっと気にしていたけれど。この調子なら,拒絶される心配はなさそうだ。――美優はホッと胸を撫で下ろす。
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