3・「パパ」と呼ばれる日

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そこで,母からの頼まれ事を思い出した。 「――あ,そうだ。裕一さん,こないだ電話でお願いしてた,母宛てのサインのことなんですけど。……今日,大丈夫ですか?」 「ママ,ばあばがどうしたの?」 興味津々(しんしん)で,春奈が訊いてくる。誰に似たのやら,この子は好奇心旺盛(おうせい)だ。 優しい美優ママは,もちろん知らん顔なんてしない。キチンと娘の好奇心を()たしてあげるつもりで,答えてあげた。 「ん?あのね,ちょっとばあばからお願いされてたことがあったの」 「ふうん?」 春奈の反応は,それだけだった。あとはやっぱり眠くなったのか,コックリコックリと舟を()ぎ始める。 「――春奈,寝ちゃいました」 美優が運転席に(ささや)くと,裕一は「そっか」と頷き,声を潜めた。 「着くまで寝かしといてあげなよ。――それより,サインのことだけど」 「はい」 「実はさあ,僕の方でサイン本,用意してきたんだ」 「えっ?」 美優は,あくまで小声で(大きな声を出すと,春奈を起こしてしまう!)驚いた。 「実はあたしも,母から本を預かってきたんです。『コレにサインしてもらってきて』って。……どうしよう?」
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