3・「パパ」と呼ばれる日

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彼が既にサインしてある本を用意してくれているなら,母から預かってきた本はムダになってしまう。 けれどこの本は,母が読み込んでいる大事な本である。愛着(あいちゃく)のあるこの本にサインしてもらえなければ,母はガッカリするんじゃないだろうか。 「じゃ,美優が持ってきた本にもサインするよ。その方が,君のお母さんも喜ぶと思うからさ」 「わあ,ありがとうございます!」 この人,なんてサービス精神旺盛なんだろう!サインを書くことを,負担に思わないなんて。作家という職業の人は,みんなこうなんだろうか? ――車は,上野(うえの)動物園に着いた。 春奈は着く直前に目を覚まして,車を降りると急にテンションが上がった。 「シャンシャン,シャンシャン♪」 「シャンシャン?――ああ,パンダの香々(シャンシャン)のこと?よしっ,パンダちゃん見に行こう!」 「わーい♪」 裕一が,はしゃぐ春奈の手を取って歩いて行く。美優には二人の姿が,もう既に立派な父娘(おやこ)のように見えた。 (これなら,いつ話しても大丈夫かも) 初対面でこれだけ打ち()けているなら,父親になることを話しても,春奈はすんなり受け入れてくれそうだ。
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