2・彼は恋愛小説家

1/21
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ

2・彼は恋愛小説家

約束していた四月四日。美優は待ち合わせの時間に少し遅れて,カフェに着いた。 バイトが少し長引いてしまったため,制服から着替えてそのまますっ飛んできても,時間をオーバーしてしまったのだ。 おかげで,肩より少し長い髪は乱れているし,顔はすっぴんだし。――ま,すっぴんはいつものことだからいいのだけれど。 「ヤバいなあ……。怒ってないといいけど」 初対面の日に遅刻なんて,心証(しんしょう)が悪すぎる。このせいで,彼とはお付き合いまで進まない可能性もあるのだ。 「……いらっしゃいませー」 カランコロン♪とドアを開けて店内に入ると,店員のお姉さんがニッコリ笑顔で迎えてくれた。美優は店内を見回す。 一人で来店している男性客は数人いるが,彼女は相手の顔をちゃんと覚えていたからすぐに分かった。 「あのっ,もしかして『Yu-Ichi』さん……ですか?」 乱れた髪をサッと直した美優がカウンターでアイスラテを注文し,思いきってテーブル席に駆け寄り,声をかけると,文庫本を手にカプチーノを飲んでいたその男性が美優に気づいた。 「そうですけど。もしかして,『MIYU』さん?」 「はいっ!ゴメンなさい,場所を指定したのはあたしの方なのに。遅れてしまって!」
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!