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その日、私は六人の従兄弟兄弟達に紛れて自宅近くの空き地で遊んでいた。
一番年嵩の兄は、私からすると六歳離れており、この兄が居る時は親の監視なしに子供達だけで日常的に外出していた。
そこに一人の老婆が現れた。
見たところは別段特徴のない、今でこそ言うなら比較的”上品そうなおばあさん”といった風体だろう。
両親の知人でも親戚でも近所の人とも違う、見慣れぬ老婆だった。
彼女は迷うことなく私の傍に来ると『おばさんの家にも女の子がいたんだよ』と言った。
その時、彼女が『居る』ではなく『居た』と言ったことを、私ははっきりと憶えている。
子供なりに”今は居ないのだ”とわかったからだ。
その後の細かな言い回しは忘れてしまったが、彼女が概ね言ったことには、
『だからおばさんの家にお人形や玩具や、かわいいお洋服がたくさんあるのよ』
『でも、もういらなくなったの』
『だからお嬢ちゃんに貰ってほしいな』
彼女は立ったまま身をかがめて、小声で言った。
まるで兄達に話を聞かれるのを憚る様に。
「いらない」躊躇うことなく私は返した。
見知らぬ人から貰い物をしてはいけないと、親から厳しく言い渡されていたし、私自身はお人形よりプラレールやレゴブロック、赤い服より黒い服を愛する子供だったため、老婆の話になんら興味を持たなかった。
そして何よりも先に述べたように、私は非常に警戒心の強い子供だった。
故に老婆の物言いに子供ながらに怪しさを感じたためである。
兄達を避ける様な素振りも不審だ。
『おばさんのおうちに見においで』
『見たらきっと気に入るよ』
そう言い募る彼女を振り切るようにして、私は少し距離が出来始めていた兄達の元へと走った。
彼女は追ってこなかった。
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