女の子の居た家

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それっきり忘れてしまったのか、私はその出来事を誰にも話さなかったようである。 その辺のところは記憶が曖昧だが、自分でも明瞭に説明できないだろうことはなんとなくわかっていた。 なにやら薄気味の悪い気がしたし、言葉に言い表せない後ろめたさがあった。 理由はわからないが単純に”親に知られれば叱られる”と思ったのだ。 それに私は何も貰っていない。 だからこの話はもう終わったのだ、とも考えていた。 次にあの老婆を見たのは、自宅の玄関先だった。 先の出来事からどれくらい日数が経っていたのかはわからない。 兄達は学校に出かけ、自宅には母と私、赤ん坊の弟だけが居た。 天気のよい日だった。 玄関の扉が開け放たれ、眩い陽光がまるで別世界の壁のように白くくっきりと家屋の暗がりに浮かび上がっていたのを憶えている。 彼女は薄暗い玄関の上がり框の隅に腰掛けていた。 とても小柄であった。 迎えた私の母を見返る姿勢だったため、逆光に黒く塗りつぶされて顔貌は判別が付かなかったが、聞こえてくる声から先日の老婆であるとわかった。 私は間仕切りの陰に隠れて老婆の相手をする母を見た。 母が背中で私を牽制しているのがわかった。
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