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十日
目の前には、一個のフルーツゼリー。
美しい食べ物だ。こちらが少し身動きするだけで、その表面は震えて繊細に反射する。
『人間てよぉ、色んなモン食えるよな』
「雑食だからね」
いつも難癖ばかりの幻聴が珍しく羨ましそうにしてくる。
あと、人間は毒素を分解する力が犬や猫より強いんだっけ。
ネットかなにかで見たんだ。よく知らないけど。
ゼリーの表面に顔を近づけると、甘いシロップの香りがする。
これは、喉越しが良いものが食べたくなって、院内のコンビニで買ってきたのだ。
「ゼリーは水だから、お前も食べられるかもしれないよ」
『要らねーっ!不味そッ!俺様水とイノチで充分』
今や俺と幻聴は、友人のように自然に会話していた。
最初は不安だったものの、特段害もなさそうだ。
受け入れてみればこそ、むしろ馴染んでいる気もしてきた。
水とイノチ。彼(?)の中で、イノチという単語はしばしば、水と同等の扱われ方をする。
そしてやっぱり、イノチっていうのは俺のアレなんだろうか。
横を見ると、鉢に窮屈そうに植わっている植物がある。
太い茎の先についた膨らみは、重たく茎をしならせている。形もふっくらとして、涙型のような、簡単に言うと蕾のような形になってきた。
“吸命花”という名前の通り、花が咲くのだろうか。
少し気になりながらも透明なスプーンで一口、ゼリーをすくい取る。
「ん…」
『どお?うまい?』
「まあまあ」
スーッと冷たいものが喉を通る感触が気持ちいい。
もう一口、今度は果物が入っている部分を口に運ぶ。
甘味がじゅわ、と口の中に広がる。
「いや、美味しいよ」
『ふーん』
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