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一日
病院に着くと、まずは病室に案内された。窓から桜が見える個室だ。
「あらキレイね」
と、それを見てババアが言った。
窓を開けたらしい。さやさやと晴れやかな風が吹き込んでくる。
「帰れよ」
そう呟くと、ババアが振り返った。目が吊り上がっている。
「なんて口きくの」
「一人になりたいんだ」
遮るように口を開くと、ババアは沈黙した。
「明日また来るわね」
「うん」
ババアが出て行くと、部屋が静かになる。
「鉢を買わないとな」
種はずっと握ったままだった。掌を開くと、椿の種ようなツヤのある、しかしその十倍はあろうかというサイズの褐色の種が顔を出す。
日差しにかざすとツヤツヤと、まるで濡れた小石のようにきらめいた。
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