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五日
『よう坊主』
薄目を開ける。
周りを見渡しても、人はいなかった。
『ここ。ここ。』
この世のものとも思えない醜いしゃがれ声だ。
右、左と瞳を動かしても、特に声の主は見つからなかった。
今気づいたが、鉢植えは窓際にまた移動させられていたらしい。
そして遠目にも、茶色い植木鉢の緑は少し大きくなっている。
ぼんやりとそれを眺めていると、また声がした。
『そんな見るなよ。照れンじゃねぇか』
「なんだ、幻か」
一瞬植木鉢が喋っているように見えた。俺もだいぶ参ってきているらしい。
『無視すんな!ちゃーんと俺様育ってんだぜぇ!快挙だ!偉えぞ坊主』
どうも幻聴が煩くてかなわない。昨日頭が痛かったから、脳みそをどこか可笑しくしてしまったのか。
気晴しに立ち上がって鉢植えを俺の隣に置き直した。
『そーだ、そうだよ。俺様をそばに置くんだ。喉がカラカラだ。水を寄越せ』
よく見ると植物は十センチほどまでに成長していた。
双葉はしおれ、植木鉢を覆うほどの面積の広い葉が何枚か生えている。
その日の夜もオナニーしていたら、『ウワッ!汚ッ!クサッ!』とか『かけるんじゃねえぞ、かけるんじゃねえぞ!』とか幻聴がやかましい。
おかげですこし手間取ってしまった。手のひらからポタポタと青葉に垂らしてやると『ギャッ!』という悲鳴の後声は途絶えた。
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