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七日
『よお』
「…」
部屋を移動し、今度は4人部屋の窓際が充てがわれた。
新しい部屋からは、桜のかわりに駐車場が見える。
「たまには他の幻聴が聴きたい」
吸命花は、ちょっとしたサイズの葉の塊に成長していた。
一本太い茎のようなものが伸びて、その先が膨らんでいる。
『おい。俺様だって分かってンだろうが』
「俺って、案外妄想癖があったのかな」
四六時中妙なしゃがれ声が話しかけてくるおかげで、こっちまで独り言が増えてきた。
ひょっとすると、本当にこの植物が話しかけているのかもしれない、と思うこともある。この部屋を出ると途端に、この声は止むのだ。
でも、ここにはほとんど尋ねる人もいない。わざわざ排除するほどのものでもない。
むしろ、幻聴はいい暇つぶしになってきていた。
『チッ』
小さなジョウロで水をやると、面の広い葉に当たって植物全体がサラサラと気持ちよくしなる。
見た目は普通の、いや多少生気が溢れすぎているきらいはあるが、普通の植物だ。
「なんだかなあ」
部屋が変わって困るのは、夜の事情だ。
四つあるベッドは全部が埋まっているわけではないが、なんとなく後ろめたい。こっそりとオナニーした。
葉の上に吐精すると、白い雫は夜明かりに照らされてキラリと光った。
『キメエんだよクソったれ』
キレ気味のしゃがれ声が、なぜだか耳に心地よかった。
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