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零日
いよいよ入院する当日、春の空気を胸いっぱいに吸い込みながら散歩していたら変な種が売っていた。
『吸命花』
地面に直接広げられた薄汚れた風呂敷の上に、品々が無造作に置かれている。どれもこれも薄汚れたガラクタばかりだ。例えば欠けた茶碗にトックリ、ドブ色のボロ切れ。
その中で明らかにひとつ、異彩を放っている。
毛筆で書き殴られた禍々しい商品名が目を引いた。
「おっちゃんこれなに?」
「読んで字の如く。命を吸って育つ花さね」
売っている小汚ねえホームレスみたいなジジイに聞くと、素っ気ない返事が返ってきた。
「買わないンなら帰りな」
「いや買うよ。いくら?」
「十万円」
「そんなに持ってないよ。もうちょっと安くして」
「一万円」
「あとちょっと」
ジジイが舌打ちする。
「帰ンな」
「わかった、払うよ」
万札を手渡すと、ジジイはニヤァと黄色い目を細めた。
「まいどあり」
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