ある日突然に

7/18
前へ
/66ページ
次へ
 ち、近いっ。顔が近いってば。どぎまぎする私の顔を覗き込んで、蓮が言い直す。 「いいや、忘れて」 掴んだ腕を離して、さっさと自分の部屋へ。パタンと閉じた扉を確認して、私も自分の部屋へ入った。  パタンッ―― 背後で扉の閉まる音がする。  なんだったの、今の。へなへなとドアの前に座り込む。ちょっと呆然とする。   『覚えてないの?』  確かにそう言ってた。あんなかっこいい人、何処かで会ってたら忘れるわけが無い。記憶を辿ってみるけれど…… 浮かんではこない。  窓は左手側で、ベッドは右寄り。間に小さなリビングテーブルと、パソコンの置かれたデスク。クッションが幾つか。とてもシンプルな自分の部屋で、ベッドの上、壁にもたれてしばらく考えてみる。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

462人が本棚に入れています
本棚に追加