予約制の情報屋カセイⅡ

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予約制の情報屋カセイⅡ

 午前三時。この時間になるとさすがに車や人通りが減り、静かになっていた。リビングの隣の事務所スペースの片隅。その窓辺のスペースで寝ている部下の鷲野の背中にブランケットをそっとかけると、ふと、窓の外を見る。 「綺麗な満月ね……」  雲ひとつかからずに光り輝く満月を見上げながら、カセイは呟いた。  もう一度、鷲野を見る。その静かな寝息に微笑むと、彼を起こさないように、物音ひとつ立てることなくカセイは、満月の光の先にある――鷲野のいる位置の向かいの自分の席に着く。  そっと、机の上のファイルを開く。――市旗が帰ってからすぐ、鷲野がデータをファイリングし、それを置いといてくれたのだ。 「さて、青灯凪乃……」  ファイルには、青灯凪乃が女性であること、平日と毎週土曜日はショッピングモールでアルバイトをしていること、休日は犬と散歩していることが書かれていた。他にも、――ここから先の情報は鷲野が調べたものになるが――休日は犬と散歩することの他に、仮想現実空間へのダイブも趣味のひとつのようだ。 「仮想現実……って確か、ヴィジットとかいう、VRMMOに似たゲームよね。自由度が高くて、アバターも自由自在に好みのを作れるとか」 「そうそう、今、特定の層に人気の旅行系ゲームですね」  突然背後から声がしたと後ろを振り向けば、鷲野が瞼をこすりながらファイルを見ている。 「しゅー君?! いつから起きてたの?」 「何か、満月がどうとか聴こえたあたりから。――すいません、寝てるフリしてました」 「~~っ!!」 「まぁ、俺のことは置いといて。このゲームのことなんですけど、配信されてから、何度かゲームにログインした人の中に失踪者が出始めたって」  カセイは渡されたスクラップブックに記載されている情報に目を通す。そこには確かに、三〇件もの数の失踪事件が発生したと書かれている。記事のタイトルは、〝ヴィジット連続失踪事件〟。 「あ、青灯凪乃の名前、あったわ」
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