「カノ女」じゃなく、100㌫不良です

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「カノ女」じゃなく、100㌫不良です

 先輩の自宅が見えて来た。  住宅街のはずれ。  白い平屋の家。  先輩、ひとりで住んでる。  先輩の家庭事情。僕、聞かないようにしてる。  門の前に人。  ネイビースーツにタイススカートの女性。  背が高い。一メートル九十センチ近くありそう。  タイトスカートからダークブラウンのストッキングを履いた長い脚が見えている。  僕のこと、じっと見てる。  セミロングの髪。ダイヤモンドのようにピカピカ輝く目。  キリッと結ばれた口。  ロンドンに研修に行く前、会ってから半年ぶり。    僕、頭下げた。  「お久しぶりです」  少し考えてから続ける。  「大黒先輩」  麻衣さんが軽く笑った。  「麻衣ちゃんって呼べばいいんだよ」  「手紙で、僕のこと『日下君』って書いてました」  「改まっての大事な話だった。第一・・・」  麻衣ちゃんが僕の肩に手を置く。麻衣ちゃんの顔が耳元に近づく。  「ほかの人の前でも、わたしのこと、『麻衣ちゃん』って呼ぶの。  ちがうでしょう」  僕、下を向く。  麻衣さんが僕の肩に顎を乗せる。  「いいわ。いまは『日下君』と呼ぶから・・・  もう一度聞いて。  三年前、スコットランドヤード大学留学の話があって悩んでた。母と同じ、検事になるつもりだったから。  日下君に素っ気ない態度とったことは反省している。  だけど今年の春、何度もあやまったって思う。  ずっと一緒だった。  そんなに簡単に絆は切れないはず。  そうじゃない?」  僕、なんにも言えない。  いまでもやっぱり麻衣ちゃんと過ごした保育園、小学生の頃を思い出すんだから・・・  「わたしの仕事忙しいけど、日下君ならやさしくて気配りもできるし、いろいろ協力してくれる。  わたしの気持ち、ハッキリしてる。  日下君が高校卒業したら、一緒になってもいいって思ってる。」  麻衣さんが「月影」の表札を見つめる。  「奈良で家出中の高校生が保護された。東京の私立高校生。  なにか弱み握られ、払うお金なくて逃げ出したらしい。両親が迎えに来たけど、  『ぜったい帰らない』 と泣き出し駅から逃げ、車にはねられ重傷。  口を閉ざしてるけど・・・真相はここにあると思う」  麻衣さん、「月影」の表札を指さす。  「100㌫不良で半グレ。  日下君の『カノ女』なんかじゃない。   日下君は、この女に脅かされて、しかたなく同居してるだけなんでしょう」  僕、なんにも言わない。  先輩に、  「家にひとりでいるんだろう。あたしんちに来いよ。  ふたりになろうぜ」 って言われたのは確か・・・  僕が下向いてたら、  「怒らないよ。でも命令だからね」 なんて言われた。  麻衣さんがぼくの手を握る。  「大丈夫。まだ引き返せる。  日下君、頭いいんだし、計算だってできると思う。  だれが100点満点か考え直す材料は提供するから・・・」    
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