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6.急転直下。これがフラゲというものか(後編)
電話を切った俺は、席に戻りながら、今回のミッションの困難さを改めて噛みしめていた。
半年以上も先の航空券が、取れないだと? そしてやっと見つけた席が仙台発、しかもその一本だけ。他はどの空港もどの便も空いてない。
マジかよ。
その後の俺はろくに仕事に手がつかず、そのことばかり考えていた。そして、気が付けば時計は夜の9時、部下はいつの間にか全員帰っていた。
「いったい国内の航空事情って、どうなっているんだろう。ちょっとネットで見てみるか」
今まで自分で飛行機のチケットなんか取ったことがない俺は、はなからコスモさんに丸投げしか考えていなかった。でもこうなってくると、そんな呑気なことではいけないような気がしてきたのだ。
「どれどれ」
とりあえず、『羽田→千歳』と入力して。ポチッとな。
そして最初に目に飛び込んできたのは、『7,360円』の文字。
はいいっ?!
えっ、えっ、どゆこと?
確かこないだは、4万とか言ってなかったっけ? 言ってましたよね。ええ、覚えていますとも。
あっ、でも、LCCなら半額以下って言ってたっけ。そうか、そういうことか。
なら、もう一度ちゃんと見てみるか。
えーと、日付をちゃんと入力して。11月14日、っと。ポチッとな。
うむ、44,600円也か。しかも全席SOLDOUT。やっぱねー。
次にAMA以外のスイカマークとビーチで検索してみると、どちらも『現在お取り扱いしておりません』。やっぱねー。
あーあ、と思いつつ、もう一度AMAを覗いてみる。
何度見ても満席。そして44,600円也。と思ったら。
あれ? なんだろう、3万2千円とか2万8千円とか、2万4千円なんて席もあるぞ。ひょっとして、時間によって値段が違うの?
おいおいおい、まさかまさかまさか、と、もう一度じっくり見てみる。
2時発3時着が4万円。それ以前はほぼ変わらず、むしろもっと高いのもある。まあ、さすがに早朝便は安いが。そして5時台発以降は半額、か。
なるほどね、5時発では開演に間に合わないもんね。
て、マジかAMAよ。あからさま過ぎだろ。
試しに他の日を見てみると……。うわ、1万8千円とかあるよ。
えーっ。航空会社って、こういうことすんのー?
まあねえ、あっちも商売だから仕方ないよねー。
どっちにしろ満席では、俺には関係ないもんねー。まいっか。
次に茨城空港を覗いてみると、『現在お取り扱いしておりません』。やっぱねー。
ついでに福島空港。『2万4千円。残り僅か』だってさ。
……。
え? 残り僅かって……。僅かだけど、あるの?
もう一度、茨城空港を。『現在お取り扱いしておりません』
再び福島空港。『残り僅か』
試しに仙台空港『残り僅か』。ただしこっちはAMA便だ。
うーむ、いったいこれは、どういうことだ。
と、暫し腕を組んで考えていると、ポケットの中のスマホが鳴り出した。
見れば、コスモさんからだ。なんというグッドタイミング。
「もしもし」
「あっ部長、夜分に申し訳ありません」
「いえいえ、どうしました?」
「実はですね、1日目が、同じホテルで2部屋取れそうなんですよ」
「お願いします」
「はい、了解です」
即断即決。
それにしても社長ったら、こんな時間まで仕事をしてるのか。俺も人のことは言えないけど、みんな大変なんだよなあ。
それはともかく、だ。
「社長、ちょうど良かったです。実はですね、今、ネットで飛行機の状況を見ていたんですけど。なんか福島空港で空きがあるみたいなんですよ」
「えっ? うそっ」
社長が驚いている。
「そんなはずは。ちょっと待って下さい……。ホントだ、売ってる……」
やっぱ、社長も知らなかったんだな。
「受け付けは来月からのはずなんだけど……。あ、買えちゃいました」
ましたって、あんたね。俺はまだ買うとは言ってないんだけど。
「どうします? 行きが9時30分。帰りは4時30分ですけど。地方空港ですから一日一便しか出ていないので、これしかありませんが」
一日一便? なら考えるまでもない。
「お願いします」
「はい、了解です」
なにこれ、簡単すぎる。今までの大騒ぎは何だったんだ。
「本当に買えたんですか?」
「はい、それは間違いありません」
「でも、確かまだ受付は始まってないって」
「ねー、私もびっくりしました。今、正規の代理店ルートで確認したんですけど、やっぱりまだ受付はしていないんですよ」
「ということは?」
「何なんでしょうね、これ」
「運が良かったということですかね」
「そうとしか言いようがありませんね。航空会社のやることはよくわかりません」
プロにわからないことが、素人の俺にわかるわけがない。
つまりこれがかの有名な、ふらいんぐげえっと~♪ というものなのだろうか。
兎にも角にも、これで今回最大の難関はクリアできたということなのだろう。
いまいち腑に落ちない気がするけど、とりあえず良かった良かった。
ちなみに、元AKBの大島優子ちゃんは、栃木の出身です。
初めてそれを知った時に、嫁と娘にドヤ顔で教えてあげたら「はあ? 今頃何言ってんの? まさか、知らなかったの?」 と白い目で見られたのも、今となっては良い思い出。
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