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5日後。朝目を覚ますとまだ私には人間の心が残っていた。えんさんとの約束が果たせる嬉しさ。また襲ってしまいそうな恐ろしさ。2つの気持ちが相まり、いま自分は複雑な思考に耐えうる人間の心であることを感じさせられた。
私は約束の地に着く。彼らしき姿が見えた。彼に近づいていってもあの酔うような感覚はまだ感じられなかった。
私は近くの叢に隠れてから彼に声をかけた。
彼はとても嬉しそうな顔だった。
「李徴!よく来てくれた。とてもうれしく思う。今は虎の心ではないようだな。」
「ああ、今日はまだ大丈夫なようだ。ただいつお前に襲いかかるかわからない。この叢の中から話すことを許してもらいたい。」
「ああ、大丈夫だ。」
それから彼は少し待っててほしいと言った。
すこし世間話をしていると懐かしい人物がこちらに近づいてくるのがわかった。私の妻である。
「えんさん!!なぜ彼女がここに。私はお前に私は死んだと伝えてほしいと言ったはずだ。」
「お前はもう一度彼女に会うべきだと私が判断したからだ。」
「あなた…会いたかった…」
久しぶりにみた彼女は前より痩せこけたように見える。
私が話す言葉に迷っていると
「ねぇ、あなた?今日はなんの日か覚えてる?」
「ああ、もちろんだ。私達が出会い、そして結婚した日だ。」
「あなたは私とはもう会わないつもりだったかもしれないけど私はえんさんからあなたの行方を聞いてどうしても会いたくなったの。たとえもう二度と会えないとしてももう一度、ただもう一度だけでも会いたかった。私はあなたともう一度人生を共にしたい。何年前かの今日誓ったあのときのようにもう一度誓いたい。たとえ虎の姿でもいい。どんなあなただって愛してるから。」
「すまない。」
私はこう伝えることしかできなかった。
「どうしてもだめなのね。」
彼女の目からは涙が落ちた。
私は何も言えなかった。彼女の思いがただ嬉しく、そして悲しかった。
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