エピローグ1

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エピローグ1

あれから何年たったであろうか。 月日は流れ、それを数えることもできない私の頭はすでに虎と化していた。 考えるのはどうやってあの肉を捕らえよう、川の位置はあそこだ、など食のことしか考えられない。 しかし私にはほんの、ほんのひと時だけ李徴であった頃に戻ることができる。 妻にもらった花冠を見るときだ。 彼女からもらった花冠は枯れることなく、華麗に咲き続けている。 私はその花冠を見たときだけ一時の人の心へと戻れるのだ。 私は人の心へ戻れたとき必ず妻と子のことを思い出す。 二人は今ちゃんとやっていけてるのか。 重い病気にかかってなどいないか。 子供の将来はどうなるのだろうか。 そんなことを考えているとすぐにまたあの酔った感覚に襲われる。 そして毎回私の目には涙が浮かぶ。 虎になりたくない。人に戻りたい。 彼女たちを抱きしめたい。 何度願っても叶うことのない願いを叫び続ける。 しかしそれでも虎へと戻るのだ。
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