小春日和

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 その翌日、四月一日の朝のこと……。  やはり昨日と同じように朝食を食べながら出かける準備をしつつ、なんとなく点けてあるテレビから流れる音声に耳を傾けていたのであるが。 「――え~今日からこのお天気コーナーを担当することになりました、お笑い芸人の小春で~す!」 「同じく日和で~す!」 「二人合わせて小春日和で~す!」(※二人同時)  若手らしく溌剌とした甲高いそんな声が、傾けた右耳の鼓膜と、春眠にいまだ眠たさの残る頭の中に響いたのだった。  目を向ければ、確かに画面には見慣れたスタジオのセットを背景に、この前のN1グランプリ(※女人(にょにん)漫才グランプリ)で優勝した〝小春日和〟という芸人コンビがやや緊張した面持ちで天気予報を伝えている。 「ああ! なんだ、そういうこと!?」  そこで、むしろ自分の方が恥ずかしい勘違いしていたことにようやくにして気づいた。  昨日、レギンスちえこが言っていた「明日からは小春日和になります」というのは、別にお天気のことではなかったのだ。  それは「小春日和の陽気になる」という意味ではなく、「担当が芸人の〝小春日和〟に変わる」ということだったのである。  確かに昨日は三月三十一日。年度の終わりであり、情報番組の出演者も往々にして変わるタイミングである。  まあ、ながら見してて、ちゃんと聞いていなかった自分も悪いのであるが……それにしても、なんと紛らわしい……。 「けど、お天気担当するにはもってこいの名前かもしれないな」  初のお天気コーナーにまだぎこちない様子でしゃべるちょうどいいブス的な二人の顔をスッキリとした気持ちで見つめながら、そう独りごちてテレビの電源をポチっと切ると、春だけど(・・・・)まさに〝小春日和〟という陽気の屋外へと今日も出勤するために足を踏み出した。                                                       (小春日和 了)
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