1・練り消し

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 1・練り消し

俺は幼い頃からずっと考えていることがある。俺が今まさに削ったこの鉛筆のカスは全くもって不憫だと。だってそうだろ?誰かが勝手に自分の人生の長さやその濃さを勝手に決めた上に、その人生がやっとの思いで文字通り身を削った結果を他の誰かが勝手に、「それは違う、意味がない」って判断し、同種の運命を押し付けられた、消しゴムってやつがこれまた見事な玉砕っぷりでその命の環の半径を小さくしていくのだから、これ以上の皮肉な結果は無い、と。 そんな憐憫と抗い難い運命へのささやかな反抗を込めて、俺は今、消しゴムのカスを必死に集めて塊を作っている。 簡単に言えば、配られた英語のテストが全く解けず、不本意ながら余ったテスト時間のせいで暇になったので、テスト開始からおよそ10分間にその尊い寿命を費やした鉛筆、及びその犠牲を全くの白に帰した消しゴム、この双方の命を削った記録の弔いを、練っている。 そう、暇すぎてテスト中なのに消しカスで手遊びを始めている。 挙句の果てには自分で脳内に壮大なスト―リーとナレーションをつけてまるで物語の冒頭みたいな流れまで作っている。 (マジでわからん、わからないというより最早悲しい。) (消しゴムで今から体をこすって、存在を消したい。そして誰かにそのカスを集めてもらって新しい存在に練り直して欲しい。)
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