満月

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いつまでもパンイチでいるわけにいかなかったので、とりあえずそこら辺に投げてあった服を着て、僕は改めて彼女の話を聞くことにした。 部屋の中央に置かれたローテーブルを挟んで対峙した僕は、まるで新種の生物でも眺めるかのように、まじまじと彼女の顔を見つめた。 そりゃそうだ。 月の精に会ったことのある人間が、この世にどれだけいるだろうか? 子どもの頃に見た図鑑にも、そんな生物は載っていなかったはず。 「先ほど申し上げた通り、私はうっかり月からこの地球に落ちてしまいました」 未だ冷めやらぬ脳ミソが、無駄な幼少期の記憶を呼び起こしていると、目の前の『新種の生物』が、淡々とした口調で静かに語り始めた。 彼女がチラリと窓の方を見た。 少し右にずれたのは、月の光を計算してのことだろう。 彼女の全身を、月の光が包み込んだ。 「月に戻る方法はただ一つです。それは、最初に出会った人間の『一番大切なもの』を持ち帰ることです。――つまり、あなたのことです。あなたの『一番大切なもの』を戴かないと、月には帰れないのです」 彼女が、真剣な目で僕を見つめた。
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