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うん。常識で考えたらダメなんだ。
だってこれは、僕の知っている『現実』ではないのだから。
そうと決まれば、この『非現実』にとことん付き合ってやろうじゃないか。
僕は再び両手を握りしめた。
なぜか胸の底から闘志が湧き上がって来るのを感じた。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
「よし。わかった。キミは今日から『ウサギ』だ」
かなりの手抜き感は否めないが、僕にしては結構かわいいチョイスじゃないか。
うん。むしろ、それしか思い浮かばない。
「ウサギ? 私の名前?」
「そう。ウサギ」
彼女が二度、瞬きをした。
「ウサギ……。そのまんま……」
なんだよ。文句あんのかよ。
先程の審査よりも緊張した面持ちで、僕は彼女を見つめた。もっとも、あれが審査だったなんて思いもよらなかったわけだけど。
「ウサギ……」
再び呟いた後、「いいですね」彼女がにっこり微笑んだ。
一気に、全身の力が抜けた。
気に入ってくれたんだ。良かった。
だいぶ適当だったけど。
「よし。名前も無事決まったことだし。そろそろ寝るとしよう」
言ってから、ハッとした。
……布団がない。
一緒に寝る?
いや、まさか。ムリムリ。
だって、ウサギは一応ウサギだけど……ってややこしいなぁ。
とにかく、ウサギは女なんだ。
一つしかないベッドの前で固まっている僕に、ウサギが「あのぉ……」声をかけた。
「寝るところなら、大丈夫です」
ウサギは立ち上がると、カーテンに手をかけた。
「それでは、おやすみなさい」
背中に月の光を受けながら、ウサギがにっこり微笑んだ。
シャッという乾いた音と共に、勢いよくカーテンが引かれ、直後、ウサギの身体が縮んだ。
立ちすくむ僕の前で、ウサギが鼻をヒクヒクさせた。
なるほど。これは便利だ。
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