十六夜

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教室に入ると、窓際の中段に視線を走らせる。 いつもの席が空いていることを確認し、僕は急いで歩を進めた。 定位置に腰を下ろし、教科書やら筆記用具やらを机に並べていると、いつものように冬馬(とうま)が隣に腰掛けた。 「昨日あれから、ちゃんと帰れた?」 昨日って……? ああ。 合コンの事か。 昨夜はなんだかいろいろありすぎて、合コンが遥か遠い昔の事の様に思える。 「ああ」 僕は気のない返事をした。 「誰かいい子いた?」 「別に」 「LINEとか交換した?」 「してない」 「……しょーがねーなぁ」 両手を高く上げて伸びをすると、冬馬は背もたれにどっかりと身体を預けた。 「何で、お前はそうなんだろうねぇ」 『そう』って、何が? 心の中で疑問をぶつける。 「俺はさ、お前かなりイケてると思うんだよ。俺がその顔だったら、マジ、パラダイスだろ」 冬馬が僕の顔を覗き込んだ。 「有効活用できねーんなら、俺にくれよ。その顔」 また顔の話か……。 いい加減うんざりする。他に話題はないのだろうか。 そんなに顔が重要か? あげられるものなら、いくらでもくれてやろう。 とにかく僕は、この顔には全く興味がない。 加えて言うなら、女という生き物にも全く興味がない。 もう一つ加えて言うなら、友だちとかいう不確かな存在にも、全くもって興味がない。 僕はやっぱり、どこかおかしいのだろうか?
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