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突然それが、ピクッと動いた。
「うわっ!」
僕は、頭痛も忘れて後ろへ飛びのいた。先程までの千鳥足が嘘のような瞬発力だ。
僕にこんな運動能力が備わっていたとは、驚きだ。
……なんてことに感心している場合ではない。
気を取り直し、僕は再び、暗闇に浮かぶ純白の球体に、恐る恐る目を向けた。
それは、想像通りのものだった。
「ウサギ?」
白くて、丸くて、ふわふわして……。
確かにウサギだ。なぜこんなところに?
ふと、ウサギと目が合った。
ウサギは、紅く透き通る目を僕に向け、じっとそこにうずくまっている。
「迷子なの?」
僕の問いかけに、コクリとわずかに頷いた気がした。
もちろん、ウサギが。
「うち、来る?」
コクリ。
「よし」
僕は、ウサギをそっと両手に乗せると、ゆっくりと階段を上った。
頭痛はどこかへ消えていた。
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