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僕の落胆などおかまいなしに、ウサギはまた、昨日と同じようにうやうやしく窓に近付き、まるで王様に献上物を納めるような格好で、僕の財布を静かに光の中にかざした。
一秒。
二秒。
三秒。
……。
十秒くらいそうしていただろうか?
僕には永遠とも思える程の静寂だったが、実際にはその程度だったのかも知れない。
ウサギが、ガックリと頭を垂れた。
「これじゃ、ないです」
アクアマリンの瞳が、少し翳った。
僕の財布を乗せたウサギの両手が、スローモーションのように下がっていく。
落ちる……!
僕は、間一髪で財布を受け止めた。
「もう! これでも僕にとっては大切な物なんだから、もっと大事に扱ってくれなくちゃ困るよ! ほんとに!」
「ごめんなさい」
……本当に、反省してます?
大きく息を吐き、「結局、またゲームオーバーか……」と肩を落とす僕に、ウサギは「そうですね」と、まるで他人事のように相槌を打った。
本気で帰る気、あるのだろうか?
「ま、明日またリベンジすればいいよ」
「そうですね」
……昔流行った、お昼のご長寿番組か?
テーブルに視線を落とすと、そこには僕の『大切だと思われるもの』がズラリと並んでいた。
僕はその中からスマホを取り上げると、「明日はこれにしよう」と、ウサギの目の前にかざした。
「なぜ?」
「うん。これは、他人との連絡手段に使ったり、調べ物をしたりと、結構マルチに使える優れものなんだよ。現代人には必要不可欠のツール……」
「どうかしましたか?」
「いや……。何でもない。」
……僕に、誰かと繋がるツールなんて、必要なのだろうか?
「ま、そういうことだから。今夜は遅いから、もう寝よう。おやすみ」
突如湧き上がってきた不快感をかき消すように、僕は勢いよくカーテンを閉めた。
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