十六夜

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僕の落胆などおかまいなしに、ウサギはまた、昨日と同じようにうやうやしく窓に近付き、まるで王様に献上物を納めるような格好で、僕の財布を静かに光の中にかざした。 一秒。 二秒。 三秒。 ……。 十秒くらいそうしていただろうか? 僕には永遠とも思える程の静寂だったが、実際にはその程度だったのかも知れない。 ウサギが、ガックリと頭を垂れた。 「これじゃ、ないです」 アクアマリンの瞳が、少し翳った。 僕の財布を乗せたウサギの両手が、スローモーションのように下がっていく。 落ちる……! 僕は、間一髪で財布を受け止めた。 「もう! これでも僕にとっては大切な物なんだから、もっと大事に扱ってくれなくちゃ困るよ! ほんとに!」 「ごめんなさい」 ……本当に、反省してます? 大きく息を吐き、「結局、またゲームオーバーか……」と肩を落とす僕に、ウサギは「そうですね」と、まるで他人事のように相槌を打った。 本気で帰る気、あるのだろうか? 「ま、明日またリベンジすればいいよ」 「そうですね」 ……昔流行った、お昼のご長寿番組か? テーブルに視線を落とすと、そこには僕の『大切だと思われるもの』がズラリと並んでいた。 僕はその中からスマホを取り上げると、「明日はこれにしよう」と、ウサギの目の前にかざした。 「なぜ?」 「うん。これは、他人との連絡手段に使ったり、調べ物をしたりと、結構マルチに使える優れものなんだよ。現代人には必要不可欠のツール……」 「どうかしましたか?」 「いや……。何でもない。」 ……僕に、誰かと繋がるツールなんて、必要なのだろうか? 「ま、そういうことだから。今夜は遅いから、もう寝よう。おやすみ」 突如湧き上がってきた不快感をかき消すように、僕は勢いよくカーテンを閉めた。
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