下弦

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教室に入ると、冬馬と目が合った。 冬馬は僕の定位置に腰掛け、じっとこちらを見つめている。 その視線から逃れるように、僕は窓際の一番後ろの席に座ると、窓の外に目を向けた。 目の端に、足早に駆け寄って来る冬馬の姿が映り込んだ。 「おい。昨日は悪かったな。あいつらが変なこと言って。気分悪かったろ?」 冬馬が謝りながら、僕の隣に腰掛けた。 「別に。慣れてるし」 「慣れてるって、お前……。こんなことに慣れんなよ」 「いいだろ、別に。僕の自由だ」 僕は、特に見たくもない窓の外を眺め続けた。 「お前さあ、寂しくないの? そんなんで」 「別に」 「俺、寂しいんだけど」 「何で?」 「お前がそんなんで」 「は?」 思わず冬馬の顔を見た。 何で、そんな顔、してるんだ? これじゃあまるで、僕が虐めているみたいじゃないか……! 「ぼ……僕は、誰とも関わりたくないんだ。一人が好きなんだ。か……軽い好奇心で、僕を構うのは……やめてくれ!」 居たたまれなくなった僕は、勢いよく席を立つと、空いている最前列の席に、どかりと腰を下ろした。 冬馬の顔が、脳裏に焼きついたまま離れない。 切ないような、寂しいような……。 まるで、何かにすがるような……。 あの顔を、僕は知っている。 あれは、幼い頃、僕が父親に向け続けていた顔だ。 『お父さん。遊ぼう。ねえ、僕を見て。お父さん……』 何でだよ……。 講義の内容は、全く頭に入らなかった。 僕の脳内を支配しているのは、冬馬だった……。
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