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「なかなか大変なんだね。あれ? じゃあ、今ウサギがいない所は、どうなってんの?」
「別の精が、補ってくださっているのだと思います」
ウサギは振り返り、月を見上げた。
月はもう、逆三日月の形になっていた。
月の世界にもいろいろあるんだ。
でも、名前がないってことは、他の精を呼ぶ時は、どうしてるんだろ……?
なんてことを考えていると、「明日から……」ウサギが僕に向き直り、神妙な顔をした。
「明日から、月が見えにくくなります。もうすぐ新月です。明日はもう、見えても光は届かないかと……」
「え?」
「この姿とも、しばらくお別れです」
そういえば、初めて会った日に、そんなことを言ってたような……。
あの時はかなりパニクってたから軽くスルーしてたけど、今は違う。
急に胸の奥の筋肉が収縮したような気がして、僕は慌てて胸をさすった。
もしかしてこれが、敬太の言っていた、心臓をわし摑みにされる感覚……?
「……次は、いつ逢えるの?」
気が付くと僕は、とんでもないことを口走っていた。
これじゃあまるで、恋人同士の約束みたいじゃないか。
僕の動揺などお構いなしに、ウサギは少しだけ笑みを浮かべると、落ち着き払った口調で答えた。
「新月から数えて三日目。三日月の晩に、またお逢いしましょう」
先日からアイデンティティを見失いかけている僕は、この時、ウサギの肌がやけに透き通っていることに、全く気付きもしなかったんだ……。
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