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あれから数日、僕は冬馬を避けていた。
さすがの冬馬も空気を読んでくれたようで、むやみに近付いて来たりはしなかった。
彼にも人並みの遠慮というものがあったらしい。
ウサギはあれからウサギのままで、日中は『日向ぼっこ』という名の光合成を行い、夜は静かに布団の上で過ごす日々を送っている。
三日月の晩が待ち遠しい。
早く人間のウサギに逢いたい。
どうやら僕はすっかり、月の精の魔法にかかってしまったようだ。
ため息を一つ吐き、窓を開けた。
漆黒の闇の中に、星だけが静かに瞬いている。
今日は新月だ。
「早く出ておいで」
そっと呟いた時。
「おーい!」
暗闇の中で、誰かが僕に手を振っているのが見えた。
何だ?
「おーい! 俺だよ、俺!」
はいっ?
冬馬?
なんで?
「何号室?」
「201……」
「オッケー!」
「……ええっ?」
何が起こっているのか理解できずにいると、間も無くチャイムの音が鳴り響いた。
慌ててドアを開けると、そこには冬馬の人懐っこい笑顔があった。
「たまには二人で飲もうぜ!」
「え? いや、なんで?」
「ダメか?」
「や、別に……」
「よし! おじゃーしゃーっす!」
言うが早いか、冬馬はズカズカと部屋の中へと入って行った。
「や、あの、ちょっと……」
「へぇー。やっぱ綺麗に片付いてんなぁ。俺の部屋とは大違い」
冬馬が感心している。
……これは、なんだ?
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