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「ということで。ま、飲もうや」
冬馬が缶ビールを開ける。
どういうことだよ!
「……いやいや! ちょっと待って!」
このまま冬馬のペースに引きずり込まれそうになるのを、必死で阻止した。
「ん?」
「そもそも、何で僕なんか……」
冬馬がじっと僕の顔を見つめた。
案外、綺麗な瞳してるんだ。
「そりゃお前。一目惚れってやつだろ」
……はいぃぃぃぃっ?
「ぼぼぼ僕は、男の人は、ちょっと……」
身の危険を感じて後ずさる。
そのキラキラ輝く瞳は、そういう意味なのか?
「や! バカ! ちげーよ! 勘違いすんな!」
冬馬が慌てる。
「そういうんじゃなくて……」
一呼吸置いてから、冬馬は少し遠くを見つめた。
「いやぁ。俺さ、見た目こんなだから、結構チャラい奴って思われてて。高校ん時なんか、上辺だけの付き合いしかしたことなくてさ」
茶色がかった無造作ヘアを指で摘みながら、冬馬が自嘲気味に笑った。
「だけどさ、お前と初めて会った時、直感なんだけど、コイツなら信じられるかもって思ったんだよ。で、いろいろ知ってくうちにさ、お前がアホみたいに裏表ない奴だってわかって、ますます仲良くなりたくなって……。で、あれこれちょっかい出してたってわけ。お前は迷惑だっただろうけどさ」
アホって……。
「でも、お前が嫌ならもうやめる。金輪際、話しかけたりしないよ」
冬馬は真剣だった。
こんな顔もするんだ。
「いや。僕の方こそごめん。誤解してた。冬馬のこと」
素直に謝った。
冬馬がそんなことを思ってたなんて、かなり想定外だ。
「……今、冬馬って……」
「え?」
「今、冬馬って言ったよな!」
「それが何か……?」
「初めて名前、呼んでくれたな!」
「そ、そうだっけ?」
「ありがとう! なんか嬉しい!」
顔をクシャクシャに歪めると、冬馬は恥ずかしそうに笑った。
その笑顔を見ていたら、何だか僕も嬉しくなった。
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