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それから僕たちは、新たな友情の始まりに乾杯をして、二人だけの飲み会を開催した。
僕の記憶によれば、多分初めての『友だち』だ。
おかげでかなりのハイペースで酒が進み、気がついたら、何故か自分の生い立ちなどもペラペラ話し始めてしまっていた。
「でさぁ。僕の父親ってのが、かなりのエリートでさぁ。僕は幼い頃から、知育玩具しか与えてもらえなかったんだよ」
「じゃ、あれか? テレビゲームとか、携帯ゲームとか、したことねーの?」
「あるわけないだろ、そんなもの」
「へぇ。かわいそうだな」
冬馬がカルパスの袋を開けながら、僕に哀れみの眼差しを向けた。
「いや。そうでもないよ。だって知育玩具は楽しいし、父親の書斎には面白そうな本がいっぱいあったからね」
「面白そうな本って?」
「数学とか、物理とか……」
「はい?」
カルパスを半分かじったまま、冬馬の動きが止まった。
「僕はね、数字を見てるのが楽しかったんだ。数字は嘘つかないし、決して裏切ったりしない。変な駆け引きだってしないだろ? だから、僕にとって信じられるものは、数字しかなかったんだ」
「ふぅーん。偏ってんなぁ」
残りのカルパスをビールで流し込むと、冬馬は軽くため息をついた。
そんな冬馬を横目で見ながら、僕はチューハイの缶を開けた。
「仕方ないだろ。みんな父親が悪い」
「何で?」
「僕の父親にはね、愛人がいたんだ」
「はあぁぁぁ?」
冬馬が素っ頓狂な声を上げた。
構わず僕は、先を続けた。
「父親は大学教授でね、その研究室の女性と不倫してたんだ」
「マジか……」
「結局、ある日突然、母さんと僕を捨てて出て行ったよ。それっきりさ」
「お前……。見かけによらず、ロッカーだな……」
「ロッカー?」
「いや、いい。続けてくれ」
缶チューハイで喉を潤すと、僕は再び話し始めた。
今日はいつもより、酒が美味しい。
「うん。だからかな。僕は、女性に対してあまりいい印象を持つことができないんだ。どの女性を見ても、あの女性と重なってしまうんだ。僕たちの大切な家庭を壊した、あの女性とね……。そのうち、女性だけでなく、人間そのものに不信感を抱くようになって……」
冬馬が困っている。
僕は一体、何を喋ってるんだ?
頭がぐるぐる回って、よくわからない。
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