新月

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「だ、ダメだよ! これは!」 慌ててウサギをひっぺがす。 これ以上何かされたら堪らない。 「なんでだよ」 口を尖らせて抗議する冬馬に、僕は苦し紛れの嘘をついた。 「あ、預かってるんだ。親戚から」 「へぇ」 「だから大事にしないと」 「俺だって大事に扱ってんだろ?」 「そうだけど……」 次なる言い訳をあれこれ考えていると、「わかったよ」納得いかない表情を浮かべながらも、ようやく冬馬は諦めてくれた。 ううっ。冬馬にキスされた。 しかも二度も……。 ウサギは相変わらず鼻をヒクつかせながら、澄んだ紅い瞳で僕の顔を見つめている。 お前、何されたかわかってんの? ウサギ……。僕の……。 僕のアイデンティティは、たった今、上書きされたに違いない。 気が付いたら僕は、ウサギに熱い口づけをしていた。 「あはは。お前、ウサギ相手に何ヤキモチ妬いてんだよ? てか、めっちゃシャッターチャンスじゃね?」 「ううっ……うるさい!」 急に恥ずかしくなって思わず声を荒げた僕に、冬馬が更に追い打ちをかける。 「いやぁ。珍しいもん見せてもらったよ」 「うるさい! うるさい! もう笑うな!」 「わかった、わかった。誰にも言わねーよ!」 「冬馬!」 「あはははは」 冬馬が腹を抱えて笑っている。 不思議と僕は、嫌な気がしなかった。 きっとこれは、酒のせいだ。 二人だけの宴会は、夜明け近くまで続いた。
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