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「私は、月から来たのです」
僕に備わっていた僅かな会話スペックが完璧に消失したのを見て、これは自分から話すしかないと思ったのだろう。呆けた僕に構わず、彼女は透き通るような滑らかな声で、静かに話し始めた。
「今日は満月で、月から地球が一番綺麗に見える日なんです。それが、今日はまた一段と綺麗に見えて……。あまりにも綺麗だったので、いつもより高くジャンプしてしまったのです。ジャンプすると、より綺麗に見えるので……」
彼女が悲しそうな顔をした。
「高く上がりすぎたのです。そのまま地球の引力に引っ張られ……。気がついたらあそこにいた……ということです」
「や、でも、さっきはウサギで……」
何とか言葉を絞り出し疑問を投げかけた僕に向かって、彼女は何食わぬ顔でさらりと答えた。
「ああ、あそこは陰になっていて、月の光が届かないので……」
「月の光……?」
「ええ、月の光を浴びている時だけ、人間の姿に変わるのです」
「……!」
ついに、脳みそがオーバーヒートした。
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