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十六夜
い……息が……できない……。
ここは……?
月?
僕、いつの間に月に……?
ああ、地球が綺麗だ……。
そうだ。
ジャンプだ。
ジャンプすると、もっと綺麗に……。
ぶはっ!
ダメだ……。
息が……。
切れた……。
はっ!
ウサギ!?
いまわの際に目に飛び込んできたものを凝視したまま、僕は思いっきり息を吸った。
「はああああああ……」
そして、吐いた。
「ふうううううう……」
僕の呼吸に合わせ、タンポポの綿毛のようなウサギの体毛が、前へ後ろへと流れた。
「お前かっ!」
ようやく呼吸が落ち着いた僕は、ウサギを睨んで抱き上げた。
胸の上に、ウサギが乗っていた。
息が苦しかったのは、コイツが原因だったのだ。
「ったく。お前のせいで危なかったんだぞ!」
当然のことながら、僕の危機感など我関せず、ウサギは相変わらず、紅く澄んだ瞳を僕に向けたまま、鼻をヒクヒクさせていた。
「ま、お前に文句言っても仕方ないか」
溜息を一つ吐くと、僕は朝の支度に取りかかった。
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