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13、追いかける俺の覚悟っす
「...で? 俺の試合の時に、お前に何があったの?」
試合を終えた先輩と俺は、そのまま真っ直ぐに先輩の家に帰ってきた。
部屋に入った先輩は荷物を床に置き、そのままベッドに腰を落とした。
「...先輩がいつも試合前にする、アレ。 王道学園の関係者に見られてたみたいで。」
先輩は俺の言葉に
「王道って、今日、トラブったヤツの?」
「...はい。 俺と同じ身分証のホルダーだったからマネだと思うんですよ。
『君、すごいね。男でも平気でキスできるんだね』って、感じのことを言われたかな。」
先輩はあーっと声を出してため息をついた。
「お前、知ってる? 王道学園って。」
?
先輩の質問に
「はい、簡単にですけど。 陸上の成績は個人のレベルは中の下。 団体だと中の上ぐらいになります。 男子だけの学校でスポーツが盛んですよね。 陸上はあまり成績がよくないみたいだけど」
俺の持っている王道学園のデータを全て出した。
「...お前、結構厳しい評価をしてるな? ま、大体はあってる。
男だけの学校の中には、異性愛者もいれば、同性愛者もいる。もちろん、無性愛者、多性愛者など色々と探せばいるのかもしれないけど、俺の言いたいこと。
男のお前も俺も、狙われる対象ってことだけはわかっておけ」
「...はぁ。」
先輩は俺の間抜けた返事に
「お前、わかってるのか?」
「わかってますよっ! 俺や先輩と同じように、男が男に夢中な人もいるって話でしょ?!」
先輩の言い方だと、なんか引っかかるんだよね。でも、自分の言葉で言い直したら、つまりこういうこと。
先輩は、一瞬、ぽかんとした後、ケラケラと笑い始めた。
「...そう、まぁ、俺が言いたいことはそれ。 でも、お前、わかってるのに、なんで怒ってたんだ?」
―!
俺は、先輩のその一言で思い出し、ムカムカとした気持ちを育ててしまった。
俺は先輩の膝の上に向かい合って座り先輩の目を見て言った。
「そうっ! 聞いてくださいよっ!
そいつ、自分の学校の選手が走るっていうのに、俺に話しかけて来るばかりしてきたんす。んで、俺は先輩を見ようと、場所を移動しようとしたんすよ。
そしたら、「話は終わってねー、とか、走りたい奴には勝手にさせておけー」みたいなことを言ってくるですよ。俺、カッチーンってきたんです。
だから...今日は、先輩のあの後ろ姿とか...じっくりと見れなかったんすよぅ...」
俺は先輩に同情してもらおうと訴えた。
ついでに先輩の太ももの辺りを手でスリスリと触った。
あぁ...もっと、じっくりとこのちらりと見えるお尻のお肉、そして、蹴り上げる瞬間にブルンと...。
悔しさを思い出した俺は先輩に抱き着いた。
先輩は俺の背中や頭を優しく撫でてくれた。
「...お前の目的がくだらないのはもう、諦めるけど。
王道にそんなマネがいるのは、嫌だわ。 じゃぁ、トラブった時の状況って、そいつ...」
先輩の首元に顔を埋めて汗のにおいをクンクン嗅いでいた俺は、顔を離し説明した。
「かなり焦ってましたよ? 「どうしたんですか?」って、聞くことできないじゃないですか。普通は、気になって見るもんですよ。 それを見てないのがバレバレで。 だから、ずっと、オロオロしてました。 あれはないわぁ。」
同じ陸上部のマネージャーとして、意識の違いと言うものを感じた瞬間だった。
俺だって、陸上自体に興味があったわけじゃない。下心がほとんどだったけど、悔しさで涙を流しているときや、喜んで涙を流す瞬間、自分の中の答えを見つけ出す過程っていうものを少しだけかもしれないけど見てきたつもりだ。あいつのように、他人勝手、自分勝手と割り切れるような人間関係を築いてきたつもりもない。
黙ったままの俺を先輩はじっと見つめていた。
「...お前、案外、真面目なんだな」
先輩の言葉に
「失礼って言葉、先輩知ってます? 俺は、基本的に頑張ってる人を見ると応援する人間です。 それが、無駄なことかもしれないけど、その人が一生懸命になってるのって、傍で見ていて俺も何かを学べる気がするから」
...って、うわー...。
自分で真面目に反論してしまったー...。
顔を真っ赤にしてしまった俺に先輩は間違いじゃないって言葉をくれた。
「...そうだな。 でも、お前が一番に応援するのは、俺にしてろよな?」
―!
ちょっとだけ、先輩のヤキモチが見えたような気がした。
だけど、先輩の言葉をそのまま受け取る俺じゃないので。
「...じゃー、俺が応援したいって思えるように、先輩は輝いてください。
がっかりさせないでくださいよ。
別に、陸上だけじゃなく。 他のことでもいいから。
だけど...傍に俺の居場所が...あったらいいな...っ!!うわーっ!」
キュンって、先輩に甘えたモードになった俺、皮肉混じりだったけど、自分の願望?希望を混ぜ込んで言ってみた。
そうしたら、先輩が暴走しちゃったっ。
ベッドの上で先輩と向き合う形で座ってた俺。
ぐるっと向きを変えた先輩は俺を抱っこしたままベッドに向き、俺を落とした。
ドサっとベッドの上で跳ねる身体、そして、覆いかぶさる先輩。
「...なーに、ちゃっかり、将来の予約までしてんの、お前?」
ギラギラとした目の先輩は嬉しそうに服を脱がしにかかっている。
うわぁぁぁ、先輩が興奮してる...。
―!?
「ダメっ! 今日はまだ、汚れまくってるから、ダメっ!」
どうせ汚れるかもしれないけど、やっぱり好きな人に自分を見せる時って綺麗な時を見て欲しいって思う。
先輩の手を掴んで動きを止めた俺、そして、ぎらついた目で威嚇する先輩。
迷ってる? もしかして、どうしようかって悩んでるのかな?
「ほら、試合後って身体を解したり休めさせたりするのがいいっていうじゃないですか、先輩、そうだっ!」
思いついた俺は、先輩に提案したのだった。
「一緒に、風呂に入りましょうっ!」
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