15、先輩のいない日

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15、先輩のいない日

高3になると、修学旅行と言うものがある。 俺たちの学校も他の学校と同じであるが、今年は、大型連休が明けてすぐだということを俺は黒澤先輩と吉田先輩に教えられた。 「えぇって、もうすぐじゃないですかっ!」 つまり、その間、3年がいない=先輩がいないということになる。 ショックっ! 「いやいや、4月にきちんと全学年の年間行事の手紙ってもらってるっしょ。  それを見たら、気付くんだけど?」 俺にそれを求めますか? 「まぁ、その間は、我慢だな」 吉田先輩は、凹む俺を見て慰めてくれる。 でも、俺の中で一番の問題は、先輩とイチャイチャできないことなのだっ! だが、ここで俺は考えた。 先輩が困らないようにすることも、また、恋人の役目なのだと。 曲げていた背中を伸ばし気持ちを入れ替えた。 「わかりました。 先輩、楽しんできてくださいね。 俺、待ってますから」 切り替えた俺に吉田先輩が 「別に今生の別れじゃないんだから普通にスマホにメッセージ入れたらいいんじゃね?」って話している。でも、声を聴くと会いたくなる衝動が...。 ぐっと気持ちを張って 「大丈夫です。 俺って、待てができる子なんすよ。 だから、 先輩は思い出をたくさん作ってきてくださいね」 そう言って送り出した初日。 既に先輩不足に陥っている俺。 高校の修学旅行って一泊じゃないんだよ、2泊なんだよ...。 先輩は修学旅行を国内ルートに選んで信州に行っている。ちなみに、オーストラリア、カナダの海外組と国内の東京ネズミの国ルートと、南国沖縄ルート、北海道ルートと様々だ。先輩は行ったことのあるルートを排除して信州を選んだらしい。 え、逆に海外とかいろんなところに行ってるんすね。俺、驚いちゃった。 『お土産、買ってくる』 朝、先輩から送られたメッセージを暇さえあれば見ている俺。 先輩の時間を邪魔しないって決めた俺は、意地を張っていた。 絶対に寂しいって先輩には言わない。 そんなことを言ったら、先輩を困らせてしまう。 それは、嫌だ。 先輩からは、メッセージが来る。 『今、昼飯の時間か?』 『おーい、起きてるかー』って。 でも、俺は先輩を困らせないようにと、返事を選ぶ。 『今、昼ご飯中っす。 一人で食べてたら、クラスのみんなが寄ってきて、今、ハーレムっす』 『起きてますよ、先輩と一緒にしないでください。ほら、友達待ってるよ?』 なんて返してる。 でも、心の隅で『声が聴きたい』『今、何を考えてる?』なんて、思う自分がいる。 これってヤバいな。 部活だって、先輩がいないと楽しくないし、そんな様子を揶揄われても怒る気もなくて、つまらない。 「悲壮感が漂ってる」って言われたって、今の俺には、逆にピッタリじゃんって受け止めてしまう。 帰るときだって一人ぼっちの道がこんなに長いなんて知らなかった。2人で渡っていた横断歩道も今日は一人だ。一歩を踏み出す時に先輩がいないって感じて寂しさが増す。早く歩こうとする先輩の服を掴む手も、今日は動くことがない。こんなに『会いたい』が溢れる時間を俺は知らなかった。 味気ない夕食を終えて、つまらない時間をグダグダと過ごした俺。 気が付けばスマホの画面を見ていた。 『家に帰った?』 『これから、豪華な食事』 夕食の画像。 スライドするたびに、もやもやとした気持ちになる。 画面を暗くし、遮断したけど、無意識に開いているカレンダーの画面。 知らされた時に付けたニコニコマークの笑顔がやけに虚しさを増すのだった。 二日目の朝が来た。 色々と考えたけどたくさんメールをくれる先輩にこれからは送らないようにって伝えようと思った。 『おはようございます。 こっちは少しだけ曇ってるけど、昼頃には晴れるみたい。  先輩、たくさん昨日、メールを送ってくれてありがとう。 今日は、たくさん写真を撮ってくださいね。 帰ったら、たくさん見せてくださいね』 心の中とは別の俺がいい子の文章を作っていく。 『声が聴きたい。』『抱きしめて欲しい』 どれも、一文字入れるたびに蓋をする。 部屋に転がっている下着を見ても何にも感じない。 カーテンを閉じたままの部屋はまるで心の中を描いているようだった。
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