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2、うまくいかない恋心
先輩が俺の事を好きだと言ってくれた日から二日たった。
エッチの時に、先輩の事を俺も思わず 好き と言っちゃったけど、これって、恋人になったっていうこと? それとも、付き合ってない?
自分の経験があまりにも乏しくて判断できないこの虚しさ。
改めて先輩に聞いてみるのが一番だと思った俺は、部活が終わったあと、先輩が出てくるまで部室の外で待ってた。
「あれ、南沢。 なに、誰か待ってんの?」
先輩と仲がいいこの人は吉田先輩という。この人も、先輩ほどではないけど、人気のある人だ。
「黒澤先輩を待ってるんですけど...」
吉田先輩は、あぁっと、どこか誤魔化す様な様子で、
「あー、あれだ。 先生から呼び出しがあったらしくって、長くなりそうって言ってたかな?」
と返ってきた。
「まだ、明日も会えるだろう? 今日は遅いし、帰ってから課題もしなくちゃいけねんだから、南沢も帰ったら? 一緒に帰る?」
先輩と待ち合わせをしたわけではないし、勝手に一人で待ってた俺は、仕方なく吉田先輩と一緒に帰ることにした。
次の日、学校に行くとクラスの中がやけに騒がしかった。
「なんか、昨日の放課後、三年の女子たちが黒澤先輩に告ったらしいよ」
「マジでー、勇者だね。」
「結果がどうなったのか、気になるよねぇ」
「なるなる...でも、付き合ったら、絶対、誰かに言っちゃうよね」
ざわりと胸の中が騒いだ。
吉田先輩は、これを知ってたんだ。
だから、俺に帰るようにって言ったんだ。
この日の俺は、一人で色々と考えて部活の時間が来るのを待っていた。
普段通りに残念な部活ジャージの先輩の尻を見ながら、ため息をつく俺。
気分は、すごく重い。
「おい、南沢、タイムをしっかり計ってやれ」
ぼーっとしていたら顧問に怒られてしまった。
「珍しいな、南沢がため息をつくなんて。 みんなもどうしたって気にしてたぞ。」
吉田先輩が代表で声をかけてくれたみたいで、部室の中では何人かが俺のことを気にかけてくれているようだった。
「...いいえ、何もないんです。 ちょっと...考え事をしていて...」
南沢の浮かない顔を見て、彼らはそれをどうすることもできずにいた。
「部活の事? それとも、他のこと?」
今、部室の中に先輩はいない。でも、無意識に視線が先輩の荷物に向いてたみたいで。
「...なに、やっぱり黒澤の事? 昨日、あいつのことを待ってたもんな。」
吉田先輩がその話に触れると、部室の中は噂の話が交わされた。
ずっと聞いているなんて、耐えれないと思った俺は
「...俺、先に失礼します。 …お疲れさまでした...」
て部室を出た。
「あ、南沢、帰るの? 昨日、お前が俺を待ってたって聞いたけど、何?」
部室の外には黒澤先輩がいて、夕やけと重なってまっすぐにみれなかった。
「...何も...。」
俺はグッと堪えた。
「先輩、何もないですよ、今日は用事があるのでお先に失礼します」
作り笑いって、やっぱり苦手だけど、胸の中がチクチクと痛んですごく不快だった。
家に帰ってから俺は、ベッドに寝転んだ。
「はぁ...。 やっぱり、先輩も誰かと付き合ったりするのかな...」
付き合うときって、「付き合おう」って話をするものなのか?
それとも、エッチをしたらもう、恋人なの?
だったら、...セフレとかっていう言葉って何のためにあるの?
...。
―!
身体。
違う違う、先輩は俺のことが好きだって言ってくれたし、俺も一応伝えたけど...
~♪
考え事をしていた俺はスマホの音に気が付き、画面を見た。
―!
「かーさん、ちょっと出てくるっ! 飯は残しておいてっ! 帰ったら食べるからーっ!」
俺は制服のまま、財布とスマホを持って家から飛び出していた。
『お前んとこの近くの公園。 待ってる』
先輩からだった。
さっきまであんなにもやもやとした気持ちだったのに、俺の中はただ一つ。
先輩に...会いたいっ!
「先輩っ!」
黒澤先輩は一度家に戻ったのか、荷物が見当たらない。
「よぅ...さっきぶり。」
急いできた俺は少しだけ息があがっていたけど、やっぱり先輩の顔を見たら嬉しい気持ちが強くなる。
「...さっきは、お疲れさまでした...。先に帰って、すみません。」
俺は、さっきまでの感情を思い出し、浮かんだ気分を沈ませてしまった。
だめだな、こんなんじゃ。
先輩の誘導で俺たちはブランコに腰を落としてる。
先輩は、ゆらゆらと動いてるだけで、沈黙が続いてた。
「...話。 したくって。 聞いてる、俺の話。 学校でまわってるやつ。」
先輩の言葉を一つ一つ、間違わないように受け止めないとダメな予感がして
「...はい。 昨日、告白されたって。 みんな、どうなったのかって気にしてました」
俺の話に、先輩は苦笑いして
「すげー、はえーな。 やっぱ、女子ってこえー。
…うん、昨日、告白された。 その子、俺の幼馴染なんだわ。」
―!
先輩は、視線を色んな所に向けるけど、一回も俺の事をみることはなかった。
まるで、俺を視界にいれたくないようにしているみたいに。
「...そうですか...。 驚きましたね、先輩。 その人も、すごく勇気を出しましたね。 幼馴染だったら...なおさら...」
声って震えて聞こえてないかな...。
ダメだな、上手く言葉が繋げれない。
先輩とその人がどんな関係なのかは、知らない。
先輩の傍にはいつもたくさんの人がいて、みんな先輩を囲んで笑ってる。
とても眩しくて、すごく遠くにあるようで。
憧れているし…大好きだ。
先輩には、俺の知らない人間関係があるのは、わかってる。
幼馴染ってことは、先輩の小学生や中学校の時の話だって知ってるわけだし。
そんな人と俺とじゃ、比べ物にならないって思った。
俺は息を静かに吸い込んだ。
「...よかったですね。 彼女、喜んでましたか」
「泣いてた。」
―!
「...嬉しくて...「バカ、違うよ。お前、変なことを考えてるだろ。」
ブランコにゆらりと動いていた先輩は、止まって俺を見た。
ギィッと音がなる軋んだ金属音が、俺の心を止めた。
俺は、先輩をみれなかった。
「...変なことってどんなことですか? 幼馴染さんから気持ちを伝えてもらった先輩は嬉しかったのかなって思ってます。 彼女さんは喜んで...「ミナミっ。」...っ!」
先輩が、言葉を遮るように俺の事を呼んだ。
「...お前、俺が別の奴の事好きになっても平気なの? お前、エロイことだけだったの? …くそっ。...だったら...今度、告ってきたやつと付き合ってやるよ。
...それで、お前、「よかったですね」っていうんだろっ!」
ガシャンと、大きくブランコから音がなり、公園に響く。
先輩は立ちあがって、公園を出て行った。
一度も、俺を見ることもなく、俺は先輩の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
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