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5、お前ら、夫婦だろうが。おまけ、吉田視点
「おっ! 仲直りしたかーっ! やっぱりお前らは、そういう風にイチャイチャしてんのが一番っ!」
吉田先輩は俺たちを隣に立たせてウンウンと頷いている。黒澤先輩は吉田先輩を睨みつけながら「下手な煽りをしやがって...。」って、怒ってる。
「でもな。 お前に一番、効き目があるのって、南沢だろっ?!」
黒澤先輩に向かって吉田先輩は、そうだろって顔で言ってきた。
―!
そ、そうなのっ?!
見るよね、見ちゃうよね。
俺は、黒澤先輩を見た。
―!
「うきゃきゃきゃっ! 真っ赤。 お前、真っ赤っ! あっ。」
吉田先輩が揶揄ってるのが、カチンときた。俺は、先輩の腕を引っ張って歩く速さを増しながら吉田先輩から距離を置こうと試みた。
「…黒澤先輩、俺、嬉しいって思ったりしないですからね。 吉田先輩に教えてもらうなんてなんか嫌ですからね。 ここは忘れておきます。」
吉田先輩は俺たちを後ろから追いかけながらひでーっ!」って、言ってるけど、黒澤先輩は、元に戻った。
よかった。
先輩のあの顔は、俺の物だから。
吉田視点。
臭う...。
夫婦のこじれた匂いがする。
うちの部で有名なのが黒澤と南沢のコンビ。もはや、アレは夫婦だ。
入籍しましたって言われたら、「え? 今までしてなかったの?」って思うぐらいだ。
黒澤なんて、あれだけ他の学校からも女子が試合に駆け付けるっていうのに、眼中にあるのは南沢。
南沢は南沢で、黒澤のためなら、顧問にも平気で文句を言いに行く勇者。 黒澤がどうやったら、成績が上がるかを一生懸命調べてる。たぶん、これがきっかけで将来の進む道が出来上がってるんじゃないかって思う。
そんな二人が、珍しく浮かない顔をしている。ニコニコ、デレデレなのに、今日は会話なんて必要最低限。黒澤は必要なことをしゃべろうとしない。
ならば、南沢に聞くしかないだろう。
で、呼びだしたんだけど、他の奴らからの邪魔が嫌だから誰もいない部屋に連れ込んじゃった。
南沢って、実はかわいい系男子。喜怒哀楽がすごく顔に出るからこっちまですぐにつられてしまう。しかも、あいつに「頑張ってくださいっ!」って言われると、頑張っちゃおうかな?って気になる所もまたスゴイ。
元気が取り柄の南沢はやっぱりシュンと沈んでいた。ハッキリとこっちも言わない所を考えると、部の話が絡んでいるようではないみたいんだ。
なら、何?
うーん。
ふと見たら、南沢の姿がやけに色気を帯びて見える。
部屋が薄暗いから光線の具合なのかもしれないが、シャツから覗く肌がやけに色っぽく見えてしまった俺って、ちょっとヤバい?
溜まってるのか?
まぁ、夫婦がこじれると、こいつらから癒しを貰ってる部の人間にも影響がでるから、長引いては困るのだよ。
黒澤に予約送信したことだし、適当に話をしておこうっと思った。
遠くから近づいてくる足音。これ、ヤバいぐらいの勢いだわ。
黒澤ってどんだけ、南沢に夢中なの。
...揶揄ってみる?
外からあえて南沢にちょっかいをかけているようにしてみたら?
あいつ、どんな顔をするのかって気になるじゃん?
結果。
マジで余裕の無い顔に俺も思わず焦ったわ。ホッとした様子の南沢といい、黒澤の必死さといい、これ、冗談ではないレベルなんじゃね?って気づいた。
そして、これが俺の南沢と黒澤の観察が始まるのだった。
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