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6、酔いどれ兄貴、やらかした
恋人になってから1週間。俺と先輩の平日は部活の後がデートみたいなものだ。
帰り道の20分がすっごく楽しいのだ。
先輩の家は俺の家から少しだけ遠い。部活に入ってお互いの家が近いと知り、それからは一緒に帰っている。先輩の家族は、先輩の他にお兄さんとお父さんとお母さんがいる。お兄さんは実家を出て一人暮らしをしていて、ご両親たちは先輩が高校1年の時に転勤になったと言って、そのまま先輩を置いて行ったらしい。すげー。
先輩はあの家に一人で暮らしてる。お兄さんが時々様子を見に来てくれるっていうけど、寂しい時もあるだろうなって思ってる。
だから、少しでも先輩が寂しくないように、一人でいる時間に思い出してくれたらいいなと思って、俺は色んな話をするのだ。
「そう言えば、この前、また、ネットで下着を見てたんです」
俺がそう切り出すと、先輩の目は「またか」って言ってる。
酷いなぁ、いつもじゃないよ、いつもじゃ。
「で、その時、兄貴も見てたんですけど、また、いつのように酔っぱらってたんですよ。で、昨日、それが届いたらしいんすけど、酔っぱらってない兄貴からすると要らない物らしいんで。
また、俺に押し付けてきたんですけど...先輩の家に今度、持って行っていい?あ、もちろん、持って帰るから。」
OKを貰った俺は、早速、休みの日に先輩の家に例の物を持っていった。
「実は、俺もまだ、中身を見てないっすよ。箱がそんなに大きくないから、小さい物だと思うんすよね。 なんだろ、AVとかかな?」
だったら、兄貴は俺に押し付けたりしないだろうから、別の物だと思う。
ま、何でもいいんだけどね。
「では、オープンっ! って、ン?...えっ、って、先輩っ!」
中身を一緒に見ていた先輩は、箱を開けた瞬間に閉じた。
えっ。
「何してんの、先輩。俺、中身がよく見えなかった。ピンクの箱は見えたけど」
「ミナミには、まだ、早い。」
...は?
先輩は、眉間に皺を寄せたまま箱に手を置いている。
「えっ、それって、どういう意味? だって、俺と先輩ってもう、エッチしたじゃんっ!大人の階段を一緒に上ったでしょ?!」
俺の問いにも先輩は「...まだ、早い」しか、答えない。
納得いくかってんだーっ!
「先輩、ヒントくださいっ!」
先輩に箱を委ねることにした。
代わりに、質問をして手がかりを貰うことぐらいいいだろう。
「...まだ「はいっ! エロイことですか?」
手をあげた俺は、一方的に質問した。
いきなりの質問に、先輩は難しい顔をしたまま、考え込む。
そして、
「...違うとは...いえない。」
兄ちゃん、あんた、何を頼んでんの。
先輩を困らせる厄介物はなんだ?
うーん、浮かばない。
だって、先輩の部屋には、エロイ物がたくさんある。
俺は、それたちが眠っている場所をチラリと見た。
既に準備が出来ている。それなのに、先輩が焦って隠すようなモノって何?
―!
頭に過ぎったアイテムに思わず顔が引きつった。
「...ムチ...とかっすかっ!」
兄貴、絞めるっ!!!
「いや、機械だ。」
先輩は、俺に隠すように背中を向けたまま箱の中身を取り出して触っているようだ。
ブーン...。
低く響くような音。
どこかで聞いたことのある馴染みの音。
うーん。
と、その時、スマホが震えた。
こ、これだっ!!
って、スマホだからって先輩は隠したりしないだろうから別の物。
ブーン。
振り返った先輩の手には、思っていたよりデカいモノがあった。
「...これ、なに? マッサージ機?」
とりあえず、先輩は俺に隠すようにしているから、あとにしておく。
先輩の横には、空箱が転がっていて俺は、スチャッと取ってみた。
『これで 届かない所も大満足♡』
『新機能!中のゴロゴロが動いて困る』
『一度知ったら、もう...やめられないっ!』
パッケージにはそれは、とんでもないくらいに喘ぎ声が書かれ、ハートマークが乱舞しカタカナで、『イク』と書いてあった。
「...せんぱ...い、こ、これって。」
「うん、大人の玩具(おもちゃ)」
―!?
「玩具っ!?」
俺は、エロイ下着には興味があっても、そういう、もっと濃厚でデロッデロなことに関しては、初心うぶなのだっ!
持っていた箱を咄嗟にポイっと捨てて、とりあえず、距離を取った。
それを見た先輩は驚いたあと、ニコッと笑顔になってる。嬉しそうだ。
「なに、お前、こういうの苦手?」
こんなにあっさりとアダルトな秘密道具を入手している大人って、怖い。
先輩の言葉に、俺は壊れた人形となってコクコクと頷いて返事した。
「ふふっ」
先輩が、笑った。
「ふふ、お前、エロイサイトで、すげー下着とか見てんのに、こういうのって免疫がないってのが、おもしれーんだけど。」
先輩は、楽しそうに手に持っている玩具を俺に近づいてくる。
―!
ピィッ!
「や、止めてくださいよ、そんなものを近づけるなんてっ!それに、よくそんな卑猥な物を爽やかに持てますね、先輩っ!」
逃げる俺、卑猥な物を持って追いかける先輩。
なんて、バカなんだ。
「これ、お前の兄ちゃんが頼んだヤツだろ? 」
「はい、そうですよ。さっきも言ったじゃないですかっ!」
部屋の中を逃げていた俺は、先輩が追いかけてこないことに気付いた。
先輩は、手に持っている物をじっと見ている。
うん、すごく違和感がある。
これが、ジュースとか制汗剤とかだったら、よかったのに。
「...お前、これ、誰に使うか知ってる?」
俺の知識は乏しい。
「もちろん、女性のだと思ったんでスけど。」
「ブッブー」
―!?
「はぁ?」
俺は、自分の兄がとんでもないモノを頼んでいたことに驚いた。先輩の傍に歩み寄り、どうしてそういう判断になったのか、気になった。
「え、こういうのって、女の人のじゃないんスか? じゃぁ...誰に。」
ごくりと息を飲み込むと同時に過ぎってしまう男の勘。
「...もちろん、オトコ」
―!
「えぇぇっ! 男にもそんなものがあるなんて、俺知らなかったっ!それじゃぁ......あ。」
頭に浮かぶ、ハレンチな妄想。
ゴロゴロ?奥まで?なんて気持ちよさそう...
―!
すぐそばにいた先輩の様子が、うん、おかしい。
寒気? なんか、先輩から冷気が起こってるってすごい。
「先に言っておきますっ! 俺、まだ、そういうのは、お世話になってませんからっ!」
逃げようとした俺は先輩にガシッと着ていた服を引っ張られた。
身体を抱きこまれ、頬にブーンと動く玩具を押し付けられながら、
「世話になってたら、お前の事、本気で犯しまくるわっ!」って言われた。
え、マジで勘弁。
「おて、お手柔らかに...ね? 俺は初心っ!せんぱーい、俺は初心ですよー。」
焦る俺。
犯すって言葉、超危険。
なんでも、合意が一番よ。
相変わらず、俺の頬にはブーンって動く卑猥な物。
やめてけれー...。
でも、見るよね。
改めて見ちゃうよね、だって男の奴って言われると。
「先輩、男の奴と女のって、形が違ってたりするんすか?」
俺はふと疑問に思い、先輩に質問をした。
「これは、余分な物がついてないからな。」
?
「余分な物って? え、なんかカスタムとかできる奴もあるんすか?!」
知識がないって、ほんと不自由。
先輩に、こんなことは言わせたくねーんだよ、本当は。
でも、知りたいじゃん。
指をツンツンして、先輩に聞いたら...顔を真っ赤にさせてた。
「...そこは、...察しろよな。」
あ、話が強制終了してしまった。
うーん。
「わかった、また、調べとく。」
「...調べる?」
俺の言葉に、先輩が反応してたのに気づかないまま、この話は終わったと思っていた。
でもね、終わってなんかいなかったのさ。
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