六十七日目

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「…こんなの、生きていてもつらいだけだわ」 「今のお前にうり二つの妹は幸せそうだが」  それより――と蛇はくいっと首を上げた。 「もう今日が終わるぞ。いいのか?」  はっと顔を上げる。腕時計を確認した。もう二十三時を過ぎていた。  私は慌てて立ち上がったが――到底、この坂を上る気にはなれなかった。  参拝すれば、またそのぶん老いてしまう。だが参拝しなければ、今まで犠牲にした若さや美しさが無駄になるのだ。 「何を怯えている。人はすべからく老いるものだ。お前は今まで人の道からそれていただけ。人の道に戻れば人との(えにし)を結ぶことができるのだぞ。本来のお前に釣り合う男と結婚し、子を成せばいい」 (結婚……)  あんなに求めていた結婚という単語が、胸にむなしく響いた。  目の前に差し迫った老いの問題に比べれば、結婚できないことなんてちっぽけなことに思えた。  そもそも幸せな結婚生活というものが具体的に浮かばない。彼氏といるときだっていつもイライラして、でも我慢して、疲れていたのだ。 (誰かと生活をすり合わせて妥協して、残りの人生を共に暮らしていくことなんて、私にはできやしないんじゃないの?)  我知らず、皮肉な笑みが浮かんでくる。――若さを手放して得た結論がそれとは。
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