六十七日目

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「百度参り、もうやめるわ」  ひくり、と蛇が頭をもたげた。 「もうこれ以上老けるのは我慢ならないもの。それに、ひとりでいるほうが幸せと気づいてしまったし」  今のままでも同世代の中でだったらずっと若くて綺麗なほうだ。これ以上、歳を取らずに済むのなら――惨めな思いはわずかで済む。  ふいに蛇が深い息を吐いた。 「…そうか。わしの(つがい)となる決心をつけてくれたのだな。お前が百度を踏んでわしとの縁切りを願うと言い出した時は、これは抜かったと思ったが」  お前の母をけしかけたかいがあった、と蛇は呟いた。 「――けしかけた?」 「二人目の孫の尻に蛇の(しるし)をつけて催促してやったのだ。ちゃんと(しろ)を渡さねば七代祟ると申し渡したというのに、いっこうに娘を寄越しにこないものだから」  代とは――代償のことだ。  ふいに不安が背中をそろそろと這い上ってくる。  結婚できない点ばかりに気を取られていたが――そもそも神と番になるというのはどうゆうことなのだろうか。人との婚姻と同じであるわけがない。 「その通り。番は神に捧げられる生贄だ。――人身御供ともいう」  ――ごめんねえ、と悪びれなく微笑む母の顔が脳裏に浮かんだ。
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