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「百度参り、もうやめるわ」
ひくり、と蛇が頭をもたげた。
「もうこれ以上老けるのは我慢ならないもの。それに、ひとりでいるほうが幸せと気づいてしまったし」
今のままでも同世代の中でだったらずっと若くて綺麗なほうだ。これ以上、歳を取らずに済むのなら――惨めな思いはわずかで済む。
ふいに蛇が深い息を吐いた。
「…そうか。わしの番となる決心をつけてくれたのだな。お前が百度を踏んでわしとの縁切りを願うと言い出した時は、これは抜かったと思ったが」
お前の母をけしかけたかいがあった、と蛇は呟いた。
「――けしかけた?」
「二人目の孫の尻に蛇の印をつけて催促してやったのだ。ちゃんと代を渡さねば七代祟ると申し渡したというのに、いっこうに娘を寄越しにこないものだから」
代とは――代償のことだ。
ふいに不安が背中をそろそろと這い上ってくる。
結婚できない点ばかりに気を取られていたが――そもそも神と番になるというのはどうゆうことなのだろうか。人との婚姻と同じであるわけがない。
「その通り。番は神に捧げられる生贄だ。――人身御供ともいう」
――ごめんねえ、と悪びれなく微笑む母の顔が脳裏に浮かんだ。
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