六十七日目

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 蛇はぶくぶくと膨らんでゆき、たちどころに見上げるような大蛇となった。 「わしと一つになれば、お前の人としての生はここで終わる。さすれば老いや人との(しがらみ)に煩わされることもない。なにより、結婚しなくてよくなるのだぞ(・・・・・・・・・・・・・)」  私はごくりと唾を飲み込んだ。蛇の言葉が、甘美なものとして身の内に響く。  あれほど嫌がっていたもの全てから、逃れられるのだ。 (ならば。私は人とでなく神とひとつになるほうがいい)  そんな思いがよぎった瞬間――ばくりっと頭から飲み込まれた。  痛みはなかった。柔らかな圧迫感の中、蛇の蠕動を全身で感じた。 (ああ、もう――頑張らなくていいんだ)  奥へ奥へと運ばれながら、意識がゆっくり遠退いてゆく。  今までにない安らぎを覚えながら、永久(とわ)に続くような生暖かく狭い空洞をずむずむと墜ちていった。    完
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